ゴールデンウィークに行われているイタリア映画祭2015で上演された「いつだってやめられる」(原題:Smetto quando voglio)を見てきた.

職を失ったポスドクが合法麻薬作りに手を染めるというストーリーに強く惹かれて,すかさず知り合いの分を含めてチケットを購入したのだが,正直なところネタ半分といったところであまり期待はしていなかった.イタリア映画といえばニュー・シネマ・パラダイスくらいしか出てこないにわか映画ファンなので,あらすじからブレイキング・バッドとオーシャンズ・イレブンを足して2で割った映画かと思って観に行ったら,完全に度肝を抜かれてしまった.いや,イタリア映画舐めててすいませんでした.

ここからは,あらすじをイタリア映画祭のページから引用して少し言葉を足しつつ,この映画のポイントをネタバレしない程度に書いていきたい.

37歳のピエトロは天才的な生物学の研究者だが、予算削減で大学の職を失う。研究に人生を捧げてきたピエトロが出した結論は、合法ドラッグを作って稼ぐこと。そのために、元同僚で不遇をかこつ経済学、化学、人類学、ラテン語の専門家を呼び集めて、犯罪集団を組織する。

http://www.asahi.com/italia/2015/works.html

主人公のピエトロはあらすじでは生物学者となっているが,実際にはBioinformaticianもしくはComputational Biologistだろう.要するにコンピュータを使って生物学を研究する学者だ.映画の冒頭では予算獲得のために,自分の研究はアルゴリズムを改良してタンパク質分子構造だかの推定精度を上げたことだとお偉いさん相手に力説している(1回しか見てないので詳細は違ってるかもしれない).彼は最初はかろうじてポストがあるが,努力むなしく予算削減の煽りを受けて失業してしまう.一方で,麻薬作りに加担する仲間はそもそも出てきた時から専門で食っていけずに,皿洗いやガソリンスタンドの店員など博士号取得者とは思えないような労働を強いられている.ラテン語の専門家は2人出てくるが,ふたりともラテン語で罵り合いができるほど語学や知識に堪能で,登場人物だれもが優秀なのは間違いない.ただそれを活かせる職がなかったというだけなのだ.我が身のようで胃が痛い…….

そんな彼らが自分たちの誇れる能力と知識で世の中に一発カマしてやろうというのがこの「いつだってやめられる」だ.大学やアカデミアにいた人間ならもちろんのこと,そもそもがボンクラ野郎どもの逆転劇という構図なので,誰でも楽しみやすい映画だと思う.学者はたいてい難しい言葉使って理詰めで話したり,黒板にチョークで数式書いたりと,共通認識はどこの国も同じなんだなぁといった具合に共感できる部分も多い.世間に馴染めず爪弾きにされてきた天才たちの悪あがきは,見ていて最高に面白かった.まさに研究者の「ウルフ・オブ・ウォールストリート」,またはアッパー系の「ブレイキング・バッド」だった.映画の脚本もテンポもトップクラスの出来の良さで,人にオススメできる娯楽映画の上位に食い込んでくる作品なのは間違いない.