0ベース思考---どんな難問もシンプルに解決できる
スティーヴン・レヴィット スティーヴン・ダブナー
ダイヤモンド社
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「ヤバい経済学」や「超ヤバい経済学」のスティーヴン・D・レヴィット&スティーヴン・J・ダブナーの新著と聞いたら,読まずにはいられないだろう.犯罪や八百長といった身近な問題に経済学を当てはめて,時には隠れた原因を突き止め,時には一見して不合理だと思われる行動が実は合理的だと解明してみせるという,異端の経済学者とジャーナリストのコンビだ.「ヤバい」と冠する類似書は本当にたくさん出版されたし,「ヤバい経済学」は映画にもなった(本を読んだのなら別に見なくても良い).彼らが次に書いたのは,ぱっと見は自己啓発のような本だが,実際のところ彼らの手の内を晒すような内容だ.本書冒頭によると,すでに出版された2冊の反響の中で,お悩み相談みたいなことが度々あったらしい.世界平和から身の上話まで,みんなこんがらがった手の付けられない問題を解決したがっている.そういう問題を解きほぐす手助けをしたいということで書かれた,原題”THINK LIKE A FREAK”の本書は,彼らフリークの頭のなかはどうなっているのか,人とは違う考え方の根源には何があるのかを教えてくれる.

やはりスタートはいつも身近でかつリアルなエピソードだ.ホットドッグ早食い大会で圧倒的な強さを誇る小柄な日本人はなぜ勝てるのか?胃潰瘍の原因であるヘリコバクター・ピロリはどうやって発見されたのか?そういった様々なブレイクスルーを観察すると,彼らには共通した考え方があった.また,アフリカ系アメリカ人が同じ地域に住む白人より心臓病になりやすいのはなぜか?大昔の宗教派閥が現在の地域格差を生み出している?といった直感的には理解しがたいが現実として存在している問題はどうやって考えたらいいのかといった,前書のような話もたくさん出てくる.何かの間違いだろうと捨て去っていいのか?そういった問題を考えぬくコツとはなにか?普通の人が考えるのすらやめてしまいそうな問題を真剣に取り組むのはなぜか?

本書の真髄を一言で表すとしたら「いろんなものを捨て去って自由に考える」ということだ.言うは易し行うは難しとはまさにこの事.それを実際にできる人は少ない.本書を読んだってみんながみんなできるようになるかは怪しい.でも,世の中のちょっと変わった「ものの見方」を覚えておけば,いつかそれを適用できる時がくるかもしれない.インセンティブや生存バイアス,分離均衡といった概念だけを覚えていても意味が無い.それを今目の前で起こっていることに当てはめると何が生まれるのかが重要だ.ただの飲み屋の話題にしか思えない話の裏側には,人間の心理と,僕らが少し賢く考えてうまく振る舞うことができるコツが隠れている.そういうことを知っていること自体が,ある意味でバイアスや一般通念から逃れられる一つの方法なのかもしれない.