迷いの晴れる時間術
迷いの晴れる時間術
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フィリップ ジンバルド ジョン ボイド
ポプラ社
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私たちの性格や考え方や行動がすべて,それぞれ個人の「時間」の捉え方によって左右されているとしたら,恐らく納得もするだろうし驚きもするだろう.確かに私たちは過去を振り返り,現在を生き,未来を想像しながら生きている.それは人間ならば誰しも同じだ.だからこそ,過去に縛られて生きる人もいれば,今が楽しければそれでいいという人,未来の人生設計を考えて慎重に生きる人など,いろんな人がいる.そういった多様な人間の性格を時間という概念から紐解いたのが本書「迷いの晴れる時間術」だ.

これだけ聞くとよくあるライフハックやら占いの一種のように聞こえるかもしれないが,本書は心理学者二人により心理学的な実験結果や考察を元にして書かれた著作だ.何より時間という側面から人間の行動原理を浮き彫りにするにあたり,時間というものが人間にとってどのようなものかということが初めに述べられる.時間は常に流れ続け貯蓄することのできない万人に共通のものでありながら,状況によって長く感じたり短く感じたり,はたまた忙しさのあまり周りが見えなくなったりと行動にも影響してくる.また人間の記憶というものは曖昧で,過去の出来事を頭のなかでいいように改ざんしてしまうことさえある.時間というものはそれだけ至極個人的なものであることが,これらの事実から見て取れる.だからこそ,時間の見方というのは人それぞれ違っており,そこから多様な性格が表出しているのだという.

本書のなかでは,「時間志向」という時間の捉え方でもって,性格を以下の6つに分類している.

  • 過去肯定型
  • 過去否定型
  • 現在快楽型
  • 現在宿命論型
  • 未来型
  • 超越未来型

詳しい定義は本書を参考にしていただきたい.自分がこれらの型のどれに当てはまるかといった簡単なテストも記載されているので,手軽に試してみることができる.過去肯定型と過去否定型は読んで字の通り過去を肯定的に捉えているかか否定的に捉えているかというもの,現在快楽型は短期的思考で今を精一杯生き,現在宿命型は自分ではコントロールできない運命によって人生が左右され自分では抗うことが難しいと考えている人.そして未来型は自分の将来を考えてそれを元に現在を生きている人というのがそれぞれの大まかな特徴となる.超越未来型はすこし特殊で例外的扱いであり,宗教的信仰的な要素により来世への志向を持って現世を生きている人たちのことだ.もっぱら自爆テロに走る人たちの精神を同列に扱うために取ってつけたような形で解説されるので,あまり意識しなくても良い(時間という側面から「来世」という概念を持ってきて分析する点はとても興味深くて面白いが……).

本書ではこれらの時間志向それぞれについて,まず特徴や長所短所が解説され,これらを元に最終章では時間というものの考え方についてどう向き合っていけばよいかということが書かれている.結論を言ってしまうと,過去肯定・未来・現在快楽が強くて過去否定・現在宿命が弱いというバランスがもっとも良いという,今を楽しくポジティブに未来を考えて生きろよという身も蓋もない結論になってしまうとはいえ,一応は何故それがいいのかについても理由付けはある.それは心理学というよりもはや時間志向で性格分析したうえでのアドバイスと言える.

自己啓発本的には本書を最後まで読んで良かったと思うか時間の無駄と思うかはそのアドバイスを受け入れるかどうかに懸かっていると言えるし,そういう意味で自己啓発としてはあんまり参考にならないか当然のこと書いてるだけだなと思う人は多そうではある.しかしながら,個人的にはそこに至るまでの考え方や分類方法を踏まえて時間をどう再認識するかということの方が,遥かに大切でアドバイスより重要だと思う.時間志向という考え方を身につけることそのものが自分の性格を客観的に見つめることであり,時間に対して「迷いの晴れる」考え方に繋がる.そしてその考え方は本書中の以下の引用文に集約されるだろう.過去と未来は本質的に同一であり,現在という唯一の生きる時間を基準として,過去と未来の捉え方のバランスを取ることが大切なのだと.

過去の出来事に対するあなたの姿勢が,出来事それ自体よりも重要な意味をもっている.(中略) 過去に起こったことは変えられないが,過去に起こったことへの姿勢は変えられる.

迷いの晴れる時間術」 P.85

未来は,過去と同様,けっしてじかに体験できない.心のなかで築いたものにすぎないのだ.

迷いの晴れる時間術」 P.124