1分間マネジャーの時間管理 (フェニックスシリーズ)
ケン・ブランチャード ウィリアム・オンケンJr ハル・バローズ
パンローリング
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これまで学生時代から色々とマネジメント本を読んできたが,会社に入って実際に業務に携わっていなければ,本書をこれほどまでに面白くは感じなかったと思う.仕事の効率性に対する不満と改善の必要性,それに強い共感があって初めて物語の主人公に感情移入し,自分のための本だと認識できる.本書は「1分間シリーズ」で有名なケネス・ブランチャードの著書のひとつ.多忙を極める一人のマネージャーが同僚に相談して「サル」(Monkey)のマネージメントの方法を学び,部下と仕事との関係性を改善してチーム全体の生産性を高めていくかを,物語形式で追っていく.

「サル」はマネージメントにおける仕事の単位だ.部下の仕事に何かトラブルや課題が生じると,その部下の肩にサルが飛び乗る.サルはこの時点では部下のものだ.それがマネージャーである自分の所に部下が話を持ち掛けてくると,一転して今度はサルが自分の肩の上に乗ってくる.話を終えた部下はまさに肩の荷が下りたように去っていき,逆に自分の肩の上にはサルが残される.渡されたサルはなんとかしないと消えないし,自分の貴重な時間を使って延々サルの面倒をみることになる.それが幾重にも積み重なって,マネージャーはいつの間にか仕事に追われるようになる.

ここで喩えとして出てくるサルは問題自体のように見えるが実はそうではなく,「次の対応」であると本書では定義している.問題をやりとりしているのではなく,それを解決するための対応をやりとりしているのだ.人に相談したり提案したりすると,された相手が今度は別の誰かに聞いたり自分で解決したりというように,対応の主体が渡されるというのは考え方としては自然だ.自分の番が終わって次は相手の番というように,権限が移譲されるがごとく問題の対応が単位としてやりとりされる.

では会社にはびこるサルはどうやって手懐けていけばいいのか?本書では,サルに直面したときには以下の4つの方法をとにかく定めるべきだとしている.

  1. 次の対応を具体的に決める
  2. 次の対応の担当者を決める
  3. 万一のリスクに備える(保険)
  4. 進捗報告の日時と場所を決める

あくまで部下と自分の間で扱うのは,問題ではなく対応だ.つまるところ何をだれがいつまでにどのように実行するのかをはっきりさせることで,サルは持つべき人間のところに渡される.それは大抵の場合部下自身であり,必要でなければマネージャーが不用意に持つものではないとしている.

本書後半ではもう少し踏み込んで,サルを渡す過程で部下をどうやって育てるかであったり,サルから開放されたマネージャーはでは何をすべきなのかについても述べられている.それらにも共通するサルという考え方は,多人数で仕事を進める上で生じる捉えどころのない事象を,扱いやすく形あるものとする視点を与えてくれる.